割増賃金の計算方法と計算ソフト

割増賃金請求権の消滅時効は2年です。

従って、過去2年分の割増賃金が対象ですので、まず、タイムカード等により毎日の勤務時間を確定します。

そして、基礎賃金、所定労働時間、始業時刻、終業時刻、休憩時間、法内残業、法外残業、休日労働、深夜早朝労働などを勤務日毎に計算し、集計していく必要があります。

計算がそもそも果たして正確かどうか原告と被告間で争いになることもあります。

最近まで統一したソフトがなかったのですが、現在では、「きょうとソフト』というものが、日本弁護士連合会の弁護士会員向けホームページからダウンロード可能となっており、今後標準的なものになるのではないかと思います。

詳しくは、判例タイムズ1436号17頁以下に「きょうとソフト」に関する論文が掲載されておりますのでご参照ください。

当事務所でも使用しております。


法律の規定

割増賃金の計算方法は、労働基準法37条(32条、35条)、附則138条、労規則19条、21条、「労働基準法第三十七条第一項の時間外及び休日の割増賃金に係る率の最低限度を定める政令」で定められています。

 

労働基準法37条

 

使用者が、第三十三条又は前条第一項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。ただし、当該延長して労働させた時間が一箇月について六十時間を超えた場合においては、その超えた時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の五割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。

2 前項の政令は、労働者の福祉、時間外又は休日の労働の動向その他の事情を考慮して定めるものとする。

3 使用者が、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、第一項ただし書の規定により割増賃金を支払うべき労働者に対して、当該割増賃金の支払に代えて、通常の労働時間の賃金が支払われる休暇(第三十九条の規定による有給休暇を除く。)を厚生労働省令で定めるところにより与えることを定めた場合において、当該労働者が当該休暇を取得したときは、当該労働者の同項ただし書に規定する時間を超えた時間の労働のうち当該取得した休暇に対応するものとして厚生労働省令で定める時間の労働については、同項ただし書の規定による割増賃金を支払うことを要しない。

4 使用者が、午後十時から午前五時まで(厚生労働大臣が必要であると認める場合においては、その定める地域又は期間については午後十一時から午前六時まで)の間において労働させた場合においては、その時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の二割五分以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。

5 第一項及び前項の割増賃金の基礎となる賃金には、家族手当、通勤手当その他厚生労働省令で定める賃金は算入しない。

 

附則138条

 

中小事業主(その資本金の額又は出資の総額が3億円(小売業又はサービス業を主たる事業とする事業主については5千万円、卸売業を主たる事業とする事業主については1億円)以下である事業主及びその常時使用する労働者の数が300人(小売業を主たる事業とする事業主については50人、卸売業又はサービス業を主たる事業とする事業主については100人)以下である事業主をいう。)の事業については、当分の間、第37条第1項ただし書の規定は、適用しない。

 

 

労規則19条

法第三十七条第一項の規定による通常の労働時間又は通常の労働日の賃金の計算額は、次の各号の金額に法第三十三条若しくは法第三十六条第一項の規定によつて延長した労働時間数若しくは休日の労働時間数又は午後十時から午前五時(厚生労働大臣が必要であると認める場合には、その定める地域又は期間については午後十一時から午前六時)までの労働時間数を乗じた金額とする。

一 時間によつて定められた賃金については、その金額

二 日によつて定められた賃金については、その金額を一日の所定労働時間数(日によつて所定労働時間数が異る場合には、一週間における一日平均所定労働時間数)で除した金額

三 週によつて定められた賃金については、その金額を週における所定労働時間数(週によつて所定労働時間数が異る場合には、四週間における一週平均所定労働時間数)で除した金額

四 月によつて定められた賃金については、その金額を月における所定労働時間数(月によつて所定労働時間数が異る場合には、一年間における一月平均所定労働時間数)で除した金額

五 月、週以外の一定の期間によつて定められた賃金については、前各号に準じて算定した金額

六 出来高払制その他の請負制によつて定められた賃金については、その賃金算定期間(賃金締切日がある場合には、賃金締切期間、以下同じ)において出来高払制その他の請負制によつて計算された賃金の総額を当該賃金算定期間における、総労働時間数で除した金額

七 労働者の受ける賃金が前各号の二以上の賃金よりなる場合には、その部分について各号によつてそれぞれ算定した金額の合計額

2 休日手当その他前項各号に含まれない賃金は、前項の計算においては、これを月によつて定められた賃金とみなす。

 

労規則21条

 

法第三十七条第五項の規定によつて、家族手当及び通勤手当のほか、次に掲げる賃金は、同条第一項及び第四項の割増賃金の基礎となる賃金には算入しない。

一 別居手当

二 子女教育手当

三 住宅手当

四 臨時に支払われた賃金

五 一箇月を超える期間ごとに支払われる賃金

 

 

労働基準法第三十七条第一項の時間外及び休日の割増賃金に係る率の最低限度を定める政令

内閣は、労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第三十七条第一項の規定に基づき、この政令を制定する。

労働基準法第三十七条第一項の政令で定める率は、同法第三十三条又は第三十六条第一項の規定により延長した労働時間の労働については二割五分とし、これらの規定により労働させた休日の労働については三割五分とする。


給料の消滅時効

賃金債権は発生してから2年間で消滅時効にかかります。

労基法115条

この法律の規定による賃金(退職手当を除く。)、災害補償その他の請求権は2年間、この法律の規定による退職手当の請求権は5年間行わない場合においては、時効によって消滅する。

 

2年間の消滅時効の起算点は給与の支給日です。

そのため、まず時効を止めることが大切です。

 

時効を止めるには、会社に対して催告しなければなりません。

催告すれば6ヶ月間時効は進行しません(民法153条)。

 

催告には、債権額の特定をしなくてもよく、計算額が少なかったとしても良いとされています。

従って、早めに催告することが大切です。

 


時効を止める催告書の雛形

XX会社御中

 

XX年XX月XX日

Y

 

請求書

 私は御社に対し、未払いの残業代その他の債権がありますので、私の御社に対する債権全額を請求します。

 未払い残業代等の計算のために、タイムカード、就業規則、賃金規定の写しを本日から1週間以内に私の自宅に郵送にてお送りください。

 


注意:

本解説は当事務所の見解を示したものでありますが、異なる見解もあります。正当な権利がある場合を除き、無断引用、転用はお断りします。